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「どんな漫画を描くの?」
「うーん、数百人の男と付き合った博多の女の話でも描こうかね。」
「最低。」
「はは、冗談だよ。」
私は手を振ってみせた。
「福音をね、伝える漫画家になりたいんだ。」
へぇ、と興味なさそうに彼女はそっぽを向く。
俺は君のために祈ってるよとでも言えば、はぁどうも、と引き笑いをしてそれきりに相違なかった。
「もう、ずっと漫画で食べていくつもりなの?」彼女が再び口を開く。
それが出来ればそれにこした事はないかな、と答えてやる。
そっか、と答えて彼女はだんまりになった。窓の外を見やる。
十年前は北上するにつれて街が目立ってくる具合だったが今ではどこもかしこも中途半端に開拓されている。
酷いところでは、田舎町を取り壊すだけ取り壊したまま、荒れ地になっている、なんてのも見受けられた。
途中で予算が尽きてしまうのだ。それでもしばらく経てばまた、新しい日本だ、未来だ何だとまた向こう見ずに動き出す。
この国は、未だ中途半端で愛らしい。
「ねぇ……彩華?」眠たそうに彼女が私に呼びかけた。
「その名前で呼ぶなって言ったろう、君。それはもう過去の名前だ。俺は『文治』だと全く一体全体何度言えば――。」
「彩華は、私と同じ、女の子だったのにね。」
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