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日本の医学技術は、この十年で可也進んだ。私は三年前に、気分で買った宝くじで一等を当てた。
三億。
その金で私は闇に包まれた夢を買った。
性転換手術、整形手術、引っ越し、改名。
“自分を捨てる”夢。今日の医学技術は簡単にそれを叶えてくれた。
異性になっても、ホルモン剤の定期接種は不要、かつ汚い話、射精もきちんと出来た。
身長も人工骨のおかげで昔より二十センチ程高い。
「折角小さくて丸っこくてかわいかったのに、今じゃ私よりデカいしデブだし、只のおっさんよね。」
彼女は飄々と人を小馬鹿にする。
「仕方ないだろう。俺はねぇ、いつまで経っても大人にならん自分を好けなかった。それにはね、彩華さんをまるっきし捨てるのが得策だと思ったのさ。」
外見は昔俺が長年好きだった男を真似たのだ、二枚目だろう、と言うと彼女は鼻で笑った。
「貴方、すぐ大人大人、成長成長と言うけれど、向こう見ずでがむしゃらに動いてじんわりじんわり大人になるのが人生であり、素晴らしいのじゃない?」
彼女は最後のポッキーをつまんで、貴方は日本の様にいつまでも不景気な訳じゃないし、と妖艶に笑った。
「文治はカウンセラーやめて正解よ。自己受容出来ない奴に人を受容出来るもんですか。」
終点、東京です――とアナウンスが流れる。
周りの客が帰り支度を始めた。これから彼女とは別行動になる。
「貴方の漫画、楽しみにしてるから。」
じゃ、と彼女は去る。私はただそれを見ながら、言葉の意味を考えていた。
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