七波遥斗の場合

13/22
前へ
/28ページ
次へ
「今朝、ハルが言ったこと理解してる。わかってる。外見が変わっても俺は俺だし、ハルはハルだ。そんな事わかってんだよ」 「じゃあ、何も問題はないじゃないっ」 春舞もそう思ってくれているなら何も問題はないじゃん。 嬉しくなって笑う僕に、春舞は小さな声で告げた。 「そんな気楽に言うな……」 「え?」 「そんなに簡単なことじゃないんだよっ!頭では理解してても気持ちが追いつかないんだよ……」 「僕は……何にそんなにこだわっているのか分からない」 「分かってたまるかっ!ハルなんかに、俺の気持ちなんてっ!」 分からない 分からない 分からない 「分かんないよっ!だって、春舞は何も話してくれないっ!気持ちもなにも全部隠して、なにも話してくれないっ!そんなの、分かるわけないっ!」 もう、いっぱい、いっぱいだった。 どうしたらいいのか分からなくて、どうして気持ちが伝わらないのか分からなくて……気づいたらありったけの声を出して叫んでた。 ーー 本当にぶつけたい想いは、こんなものじゃなかったのに……違うのに…… 一気に放出した熱が、だんだんとおさまり、頭が冷静さを取り戻した時、見上げた春舞は…… 泣いていた。 ただ、静かに泣いていた。 謝罪の言葉が出る前に、反射的に動いた身体は、立ち尽くして泣く春舞を力いっぱい抱きしめていた。 『ごめん』、『ごめん』、と何度も心の中で謝りながら、春舞を抱きしめ続けた。 喉の奥がきゅっと詰まって、鼻がツンとする。 一言でも発したら、嗚咽をもらしてしまいそうで……だから、ただ抱きしめた。 「は、るっ……ま」 やっとついて出た言葉は、春舞の名前を呼ぶのが精一杯だった。 でも春舞は……僕の胸を押し返して、腕の中から離れていく 「はっ、る……」 「ごめん。俺一緒に……っ、今はハルと一緒にいられない」 それだけ言うと、春舞は小さく笑ってリビングを、家を出ていってしまった。 追いかけたいのに、足が動かない。 だって、春舞は僕と一緒にはいられないって言った。 春舞は僕と一緒にいることを望んでいない。 望んでない。 我慢していた涙が嗚咽とともに一気に溢れた。 これが、春舞との初めての喧嘩だった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加