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「今朝、ハルが言ったこと理解してる。わかってる。外見が変わっても俺は俺だし、ハルはハルだ。そんな事わかってんだよ」
「じゃあ、何も問題はないじゃないっ」
春舞もそう思ってくれているなら何も問題はないじゃん。
嬉しくなって笑う僕に、春舞は小さな声で告げた。
「そんな気楽に言うな……」
「え?」
「そんなに簡単なことじゃないんだよっ!頭では理解してても気持ちが追いつかないんだよ……」
「僕は……何にそんなにこだわっているのか分からない」
「分かってたまるかっ!ハルなんかに、俺の気持ちなんてっ!」
分からない
分からない
分からない
「分かんないよっ!だって、春舞は何も話してくれないっ!気持ちもなにも全部隠して、なにも話してくれないっ!そんなの、分かるわけないっ!」
もう、いっぱい、いっぱいだった。
どうしたらいいのか分からなくて、どうして気持ちが伝わらないのか分からなくて……気づいたらありったけの声を出して叫んでた。
ーー 本当にぶつけたい想いは、こんなものじゃなかったのに……違うのに……
一気に放出した熱が、だんだんとおさまり、頭が冷静さを取り戻した時、見上げた春舞は……
泣いていた。
ただ、静かに泣いていた。
謝罪の言葉が出る前に、反射的に動いた身体は、立ち尽くして泣く春舞を力いっぱい抱きしめていた。
『ごめん』、『ごめん』、と何度も心の中で謝りながら、春舞を抱きしめ続けた。
喉の奥がきゅっと詰まって、鼻がツンとする。
一言でも発したら、嗚咽をもらしてしまいそうで……だから、ただ抱きしめた。
「は、るっ……ま」
やっとついて出た言葉は、春舞の名前を呼ぶのが精一杯だった。
でも春舞は……僕の胸を押し返して、腕の中から離れていく
「はっ、る……」
「ごめん。俺一緒に……っ、今はハルと一緒にいられない」
それだけ言うと、春舞は小さく笑ってリビングを、家を出ていってしまった。
追いかけたいのに、足が動かない。
だって、春舞は僕と一緒にはいられないって言った。
春舞は僕と一緒にいることを望んでいない。
望んでない。
我慢していた涙が嗚咽とともに一気に溢れた。
これが、春舞との初めての喧嘩だった。
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