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「七波どうしたのよその顔」
「顔?」
「出勤してみてビックリよ。泣いたの?」
「……」
なんとなく「泣いた」とは言いづらくて黙る。
「隠しても無駄よ。だって、目が腫れてるもの。イケメンが台無しね」
何があったの?と、まどか先輩の目が聞いてくる。
「春舞くんと喧嘩でもしたのかしら?」
「……はじめて、喧嘩しました」
「はじめて?何十年と一緒にいて、初めて喧嘩したの?あなたたち本当に仲良しね」
呆れも混じった声。
「春舞を泣かせてしまいました。何であんな風になってしまったのかわからないんです。僕はただ、見た目がどんなに変わってしまっても何も変わらない。って伝えたかっただけなのに」
どんなに見た目が変わろうと、春舞を好きな気持ちは変わらない。
カッコイイと思う気持ちだって変わらない。
ーー 何も変わらないのに……
「春舞に言われてしまいました。ハルに俺の気持ちなんて分からないだろう。って」
「それで、七波はなんて答えたの?」
「分かるわけがない。って、春舞は何もいってくれない。話してくれないからって」
「あらまぁ……」
本当に呆れた様子のまどか先輩にイラっとくる。
「七波、それじゃダメよ」
何がダメと言われているのか分からない。
だって、何も話してくれなかったら相手の気持ちなんて分かるわけがない。
「たしかに、相手の気持ちなんて分からない。目に見えないものだもの。でも、その前に七波は知ろうとしたのかしら?春舞くんの気持ち」
「春舞の気持ち?」
「そうよ。七波はただ自分の気持ちをわかってもらおうと、伝えようと必死になってて大事なことが見えてなかったんじゃないかしら?」
そうだ、僕は自分の気持ちだけを伝えようと、分かってもらおうと必死になってた。
春舞の気持ちなんて、ちっとも考えてなかったんだ……
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