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「俺は、ハルみたいに簡単に気持ちを切替られなかった。どんなに見た目が変わってもハルはハルだって、わかってたんだけどな」
握った僕の手を額につけて、ゆっくりと言葉をはきだす春舞。
「俺はハルにとって、いつまでも、大きくて頼りがいがあって、格好良いヒーローでいたかった。6年たって、成長していたのはハルだけで、俺ななにも変わっていなくて……身体だってお前の方が大きくなってて、俺は焦ったよ」
ゆっくり、ゆっくり、僕たちの止まった時間が動く。
「あんなに小さくて、守ってやらなきゃって思ってたハルが、全然別人になってるんだからな」
フッと眉をさげて笑う笑顔はあの頃のままだ。
「そんなハルを見てたらさ、もう俺は必要ないんじゃないか?もう俺はハルにとってヒーローでもなんでもないんじゃないか?って思って」
「そんなことないっ!春舞は僕にとって、たった一人のヒーローなんだよっ!」
「そう言うと思った。だけど、だからこそ俺はどんどん自分に自信がなくなっていく」
そっと、僕の手を離すと、ベッドに腰をかけた。
そうして、背を向けたまま……
「ハルは優しいから、昔も今も。だから、俺に同情してくれてるんじゃないかとか、そんなこと考えはじめちゃって……最低だろ?」
ーー そんなこと、ないのに……
「俺は自分の自信のなさから、ハルを疑って、耳を塞いで目を閉じて、逃げたんだ」
「春舞……」
「自分の自信のなさとかそうゆうの全部、お前のせいにしてさ……」
逃げたんだよ。と小さく呟いた春舞。
どうして僕は気づかなかったのだろう……
春舞は悩んでいたのに、苦しんでいたのに、僕のために……
ここで泣くのはズルイと思って、僕は必死に涙をこらえた。
「ハル」と、呼んで振り向いた春舞はふっと笑った。
「見た目は変わっても、お前、中身は全然変わってないのな」
くしゃりと、頭を撫でられて、我慢していた涙が一気に溢れた。
「泣き虫で、優しくて、俺のこと大好きでさ」
「ぅ、うーっ……はるまぁっ」
「あの時、お前が俺に「何も言わないからわからない」って怒ったとき、こんな風に泣かせて傷つけたのは俺だから一緒にいられないと思った。俺は……逃げてばかりだな」
そう言って笑う春舞。
頬に当てたれた手は震えていた。
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