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定時からだいぶ時間が過ぎた午後20時。
オフィスにはまだぽつりぽつりと人がまばらに残り仕事をしている。
いつもこのくらい残業をするのは当たり前になっている紗那は、出来上がった書類をまとめ、帰り支度を始めた。
「杉浦、帰るのか?」
顔をあげると真中課長と目があった。
「はい、今日の分はもう終わりました。」
「そうか。じゃあ送るから着替えたら下まで来い。」
紗那は申し訳なく思い断ろうとしていると、真中課長はすでにパソコンを閉じてコートを羽織っている。
「5分以内だぞ、それ以上は待てないからな。」
そう言い残すとさっさとオフィスを後にした。
遠慮するひまもなく半ば強制的に時間制限まで設けられた紗那は急いで更衣室へ向かった。
さらりとした黒髪を後ろへ流し、眼光強い真中は仕事にはめっぽう厳しく、30歳そこそこで課長に昇進したやり手だ。
いつもパリッとした細身のスーツを着こなした彼は女性社員にも人気があるとか。
送ると声を掛けられた紗那は、残業中の女性社員にちらりと睨まれたことを思いだし、更衣室で静かに息を吐いた。
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