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血の繋がりはないものの、紗那にとって6歳年上の真中は兄同然の存在だ。
実家が隣同士で、一人っ子の紗那は小さい頃から慕っていたのだ。
短大に入るために上京してからは疎遠になっていたが、偶然就職した会社で再会した時はお互い驚いたものだ。
しかも紗那の直属の上司だったこともあり、何かと面倒を見てくれる。
今日"は"奢る、なんて言い方をした真中を見てふと笑ってしまう。
今日"も"、の間違いだ。
車は一軒の創作料理のお店で止まった。
「先に入ってて。車駐車場に入れたら俺も行くから。」
紗那は頷くと車を降りた。
木でできた重厚な扉をあけると、少し薄暗い空間が現れた。
落ち着いたオレンジの照明が各テーブルに灯る。
真中課長が連れてきてくれるお店はいつもお洒落で、なのに気取らなく良いお店ばかりだ。
案内された奥のソファーに腰を沈めると、間もなく真中も迎え側のソファーにやってきた。
「紗那、何飲む?」
「あっちゃん車だから飲まないんでしょ?私も今日はアルコールはやめるよ。」
ソフトドリンクのメニューを手にしながら、紗那は、昔の話し方になっちゃったな、と思った。
が、それは真中も同じで、プライベートになると"杉浦"ではなく"紗那"と呼ぶ。
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