104人が本棚に入れています
本棚に追加
夜の図書館は静寂に包まれながらも暖かく、冷えた体がじんわりとした。
がらんとした読書スペースには仕事帰りと思われるサラリーマンが一人と、大学生らしき女の子が一人。
受付にはいつものお爺さんが眠たそうにコクコクと頭を揺らしながら座っている。
ずらりと並んだ背の高い本棚の間には人は居なかった。
推理小説が並ぶ一角に入り込む。
「こういうのって読めないんだよねえ。」
いくぶん声のトーンを落とした男が呟く。
推理小説が嫌いではない紗那は何でか疑問に思ったが、それを聞くほどこの男に興味がないので黙っていた。
本棚と本棚の間に腰を降ろした男は、紗那の手を引きとなりに座らせた。
「彼氏からもらったんでしょ?」
何のことかと少し考えたあとすぐに、ああ指輪の話かと思いながら、紗那はなおも黙っていた。
「別れたの?」
紗那を覗きこむ男の目からは面白がっている空気は感じとれなかった。
だからと言って同情の色もない。
ただ純粋に質問している様に見える。
最初のコメントを投稿しよう!