1.最後の約束

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「サナは―――、」 「なまえ。」 紗那はここへ来てはじめて男に話しかけた。 自分だけ名前を知られているのがどうにも理不尽に思えたから。 突然名前を聞かれた男は別段驚く風もなく、ふっと微笑んだ。 「本名言った方がいい?」 「別に…。どっちでもいいけど。」 「じゃあ、タロウで。」 「…。」 再びだんまりな紗那を可笑しそうに眺めてから、タロウと名乗った男は静かに呟く。 「サナはタロウと出会いました。」 「…。」 「でもサナはタロウをとても怪しい男と警戒して、何も答えてはくれません。」 「…。」 「タロウがサナに声をかけたのは確かにキョウミホンイでしたが、決してヤッちゃおうとか思っている怪しい男ではないのです。」 「…。」 「それはそれは心の優しい…「わかったからっ。」」 へんてこな物語を終わらせるべく、紗那はタロウの言葉を遮った。 「別れたっていうか…まあ…別れた…?」 小さなため息を悟られないように、紗那はゆっくり話した。 「なに、その歯切れの悪さ。」 タロウはクッと笑いを漏らす。 「んー。正確にはやっと引きずらなくなった、ってところかな。」 紗那はタロウが理解しやすいように言い直した。
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