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「そうなるまで、大変だった?」
タロウは優しい笑みを浮かべて紗那を見る。
その目に、ただ優しさだけが浮かんでいることに紗那は安心した。
「大変…ではなかったよ。苦労もしてないし、無理もしてない。」
「どうやって克服したの?」
今の状態を克服したというのに少し違和感を覚える。
「何にも…何にもしなかった。」
そう、何かを努力した訳ではないのだ。
克服が努力の上で、というのが前提であれば。
「なにも?」
「なんにも。」
本当のことを話しただけなのに、タロウは興味津々に紗那を覗きこんだ。
「何で指輪捨てたの、コンビニのゴミ箱の上なの?」
「え?だって指輪って燃えるゴミか悩んで…」
ぶっ。
タロウは目を見開きながら、吹き出した口元を押さえた。
「や、そこじゃなくて…、そこ!?ぶはっ!!」
我慢しきれず吹き出すタロウのスーツの袖を、紗那は慌てて引っ張る。
「ちょっ…うるさい!静かにしなきゃ怒られるって!」
「ごめんごめん、そうじゃなくてっ、なんで捨てたのかって聞いたの」
まだ止まない笑いを噛み殺しながらタロウは言った。
早く止めと思いを込めた睨みを効かせながら紗那はひとつため息をついた。
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