scene37 散歩道

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細い樹の影が美鶴の上を何度も通りかかり、美鶴の頭がまた影から現れるたび、 オレンジの柔らかい光が美鶴の髪を彩り、跳ねながら散っていく。 その眩しさに、俺は目を細めた。 妙にドギマギしているのは、なんなんだろう。 「洗い熊美鶴で~す」 「うるせーな、そのうち洗い熊美鶴から矢野美鶴に格上げしてやるから、覚悟しとけ」 美鶴の頬ずりが止まった。 しまった、なんか、……唐突すぎた、ような……。 腕に感じる美鶴の指に力が入って、うなるような声が聞こえてくる。 「……おぬし、武士にニゴンはないか」 「う……な、ない、はず、と思う」 「あ~っ! すでにニゴンがある~っ!」 「うるせーよ!」 俺の腕にしがみついたまま、あ~っ、あ~っ、と叫びながら、 美鶴は今度は、俺の肩にちょこんと頭を乗せた。 「えへへ。……ありがと」 そのまま俺を見上げて、美鶴はまた笑った。 現実になるかどうかなんて、俺にもわからない。 でも、あのつらい夜のことなんか何もなかったみたいに笑う美鶴が、愛しい。 この、強さを秘めた無垢な笑顔を、守りたい。 これからだって、きっと何度も泣かせるだろうけど、 でも、美鶴がうつむいたまま、一人で泣くようなことだけは、もう絶対にしない。 『イルミネーション』という俺の夢の中に、美鶴はいないけど、 でも俺のそばには、必ず美鶴がいる。 だから俺は歩いて行ける。 『イルミネーション』と『美鶴』という、俺のエネルギーの両輪がある限り、 一歩ずつ、ずっと歩いて行く。 いつものこの道を、ずっと。 Fin.
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