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細い樹の影が美鶴の上を何度も通りかかり、美鶴の頭がまた影から現れるたび、
オレンジの柔らかい光が美鶴の髪を彩り、跳ねながら散っていく。
その眩しさに、俺は目を細めた。
妙にドギマギしているのは、なんなんだろう。
「洗い熊美鶴で~す」
「うるせーな、そのうち洗い熊美鶴から矢野美鶴に格上げしてやるから、覚悟しとけ」
美鶴の頬ずりが止まった。
しまった、なんか、……唐突すぎた、ような……。
腕に感じる美鶴の指に力が入って、うなるような声が聞こえてくる。
「……おぬし、武士にニゴンはないか」
「う……な、ない、はず、と思う」
「あ~っ! すでにニゴンがある~っ!」
「うるせーよ!」
俺の腕にしがみついたまま、あ~っ、あ~っ、と叫びながら、
美鶴は今度は、俺の肩にちょこんと頭を乗せた。
「えへへ。……ありがと」
そのまま俺を見上げて、美鶴はまた笑った。
現実になるかどうかなんて、俺にもわからない。
でも、あのつらい夜のことなんか何もなかったみたいに笑う美鶴が、愛しい。
この、強さを秘めた無垢な笑顔を、守りたい。
これからだって、きっと何度も泣かせるだろうけど、
でも、美鶴がうつむいたまま、一人で泣くようなことだけは、もう絶対にしない。
『イルミネーション』という俺の夢の中に、美鶴はいないけど、
でも俺のそばには、必ず美鶴がいる。
だから俺は歩いて行ける。
『イルミネーション』と『美鶴』という、俺のエネルギーの両輪がある限り、
一歩ずつ、ずっと歩いて行く。
いつものこの道を、ずっと。
Fin.
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