図書館

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「あ、騒がないでね小川さん」 「うっ、開口一番に言われるのはダメージ大きい」 「うん、それじゃあ行こうか」 「軽く流された!」 「はいはい、図書館では静かにね」 「断る。残念ながら春野くん、私は三秒以上黙っていると──」 「あ、ここ空いてるね、荷物置こう」 「今度は無視っ!? 春野くんの鬼畜っ」 「うん、ありがとう」 「世界一嫌な感謝の仕方された!」 「こら、図書館では静かに」 「うわーん、納得いかないよー」 「元気だなあ小川さんは」 「それだけが取り柄ですからっ」 「変わり身早っ。今までのテンションは演技だったの?」 「ん? いや、素だけど」 「ああ、つまり情緒不安定なのね……」 「待って、哀れむような瞳やめて。私春野くんにだけはそんな目で見られたくないの……」 「…………はあ」 「更に目力が上がった……だと……? 私哀れまれてる……過去最大級に哀れまれてるよ……!」 「ああ、君完全に面白がってるよね。って、宿題が始まらないから。座って座って」 「オーケーオーケー、ちなみに私はオーケストラとか好きです」 「別に聞いてないからね。まあ宿題の主旨には微妙に合ってるかもだけど」 「はれ? そうなん?」 「何故に方言。ま、そうだね。音楽家の生涯と、その作品の傾向について、双方の関係性を考察しなさい、みたいな感じかな。ちなみに僕の担当はバッハ」 「ああ、あの素晴らしい髪型の」 「うん、多分七割くらいの人がバッハに抱いてるイメージとしては間違っちゃいないだろうけど、そういう言い方はやめようか」 「えー」 「えー、じゃないの。本当に自由だね小川さんは」 「ふっふっふ、リバティかフリーダムなら間違いなくフリーダムを選ぶ、それが私なのだよ春野くん」 「小川さん、制限なき自由は自由とは呼ばないよ。それは混沌と呼ぶんだ。リバティなくして自由は語れない。制限のある状態を経てこそ僕らは自由というものの価値を知るんだ。人が自由を知りたいならば、その真逆の状態も経験しなければいけない。そもそもリバティとフリーダムの違いは──」 「ごめん、春野くん、ごめん。私が悪かった。ごめんなさい。だから落ち着いて。うんちく語らないで」
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