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図書館
――眠ればいろいろな夢を見る、と人は言うが、自分は生まれてからこのかた、ただ一つの夢しか見ない。
ロセッティ
林檎の谷
私はいつからか奇妙な夢を見るようになった。もともと夢とは奇妙なものだが、私が見る夢とはまるで映画でも観るように長く鮮明で、また私はその日を境にその夢しか見ていないのだから、これはもう奇妙な夢といっても差し支えない夢だろう。
その夢。
最近、その夢に微かな変化があった。私が見る夢とは、土の壁をそこかしこに張り巡らせた迷宮の中央にあたる場所で、寝台で横になった白人の女の、柔らかな寝顔をじっと見るだけの夢なのだが、それが或日を境に突然起き上がり、小説を読みだしたのだ。それも頗る楽しそうに、時折クスリと笑いながらその小説を読んでいるのだ。私の記憶が正しいのならば、小説はフーケーの水妖記だ。ドイツロマン派の傑作だが、どうしてこの小説なんだろうか・・・・・・。
私はそのことがどうにも気がかりで仕方がなかったから、休みの日に時間を割いて図書館に行くことにした。もしかすると、何か手がかりが見つかるかもしれない。しかし落ち着いて考えてみれば、夢のことなぞに真剣になるのも馬鹿らしい話だ。私はそう考え直して休みの日はぼうっとしていようと決めた。
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