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だがいざ休みの日になってしまうと、体がウズウズとして仕方がない。胸は不気味に高鳴り、じっとしているだけで冷や汗が淋漓した。私は家のなかで色々なことをしてこの異変をおさめようと試みたが、どれも私を苛立たせるだけで良好な効き目なぞ皆無に等しかった。そして気が付くと、外套を羽織り近所の図書館に向かっていた。私は結構な快楽主義者だ。毛ほどの不愉快でも、それは私にとって、無間地獄に匹敵する苦痛だ。
××市立中央図書館に来た私は、早速奥処にあるドイツ文学のコーナーに駆け寄った。その様を見ていた受付の職員が面妖そうな眼差しを私に投げ掛けてきたが、かまうまい。
私はドイツ文学の書架をはじめから終わりまで確認したが、何故かフーケーだけが無かった。おかしいなあ、と思って背後の海外全集の書架へ視線を転じようとした時、異質を醸す扉が、ドイツ文学のコーナーの隣にあることに気がついた。動物か何かの皮で出来た酷く不気味な扉だ。私は扉の前までくると、訝しくそれに触れてみる。
すると驚いた。
この扉は人の皮で出来ているのかもしれない。この触り具合といい、この肌色といい、これは人間の皮を想起させる質感だ。けれどこんな扉はいつ出来たのだろう、私はそう思いながら、先ほどの受付の職員にあの扉について訊いてみた。しかし受付の職員は鹿爪らしく、そんな扉はありません、と応えた。私は次元が歪むような不可解を感じながらも、そんなことないから、ドイツ文学のコーナーに来てくれ、と職員に言った。職員は渋々応じて、私はドイツ文学のコーナーまで職員をつれてきた。
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