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「一つ、訊いてもいいですか?」
小さな教会の中に声が響く。反響し、まるで僕の声ではないようだ。
大きな十字架に向かい、手を組んで祈る彼女の背に、言い知れぬ寂しさを感じてつい声にしてしまった。
沈黙を破った僕の方にゆっくりと振り返り、彼女は微笑んでみせる。
優しい笑み。彼女は、僕にとってはまさに慈愛の象徴とも言える存在だ。
僕は彼女ほどきれいで優しい笑みを浮かべる人を知らない。
でも今は、その笑みを冷たく感じる。
彼女も、自分の表情の違和感に気づいたのか、また前を向いてしまった。
「どうして、どうしてあなたが?」
今日、何度目かの問いかけ。彼女の背中にぶつかり、反響し、消えていく。
再び沈黙がこの小さな教会を支配する。
「黙っていて、ごめんなさい」
おもむろに口を開いたのは、彼女だった。
「でも、君のこと、傷つけたくなかったから」
微かに彼女の頭が動き、うつむく。
白と黒の修道服は、わずかに揺れるだけだった。
「できれば、行きたくない。でも、私にしか、《月の巫女》にしかできないことだから」
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