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「ねぇ、この木はなんて言うの?」 あとから遅れてやってきた少女は、着物の裾を左手で抑えながら、僕の指差した変わった色の花を咲かせる木を見上げながら呟いた。 「桜……」 一陣の風が吹き抜けて、舞い降る白い花びらを巻き上げていった。 「サクラ?」 「そう、桜。きれいでしょ?」 どこか誇らしげに手を差し伸べて、彼女はひらひらと落ちる花びらを一枚、宙からそっと掬い上げた。 「とってもきれいだよ」 僕は彼女のほうに向き直って言った。少し小さいけれど、これが精一杯だ。 「でも、この花はどこか儚げだね」 それきり、お互いに黙り込んでしまう。まだまだ、たくさん話したいことがあるのに……。 気持ちは焦るのだが、うまくいかない。こんなにもどかしいのは初めてかもしれないな。 視線を花に戻して、ぼんやりと眺めていた。二人並んで。 「そろそろ戻りましょう?風が強くなってきたわ」 どれくらいの時間が経っただろうか。陽が傾いてきていた。でも、帰りたくない。 「もう少し、このまま眺めていたいんだ。いいかな?」 彼女はちょっと首を傾げたけど、許してくれた。
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