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流麗な筆跡(て)は身分の高い人を思わせるが"悪し神"は人ならざる者ゆえに人智を越えていたのだろう。
それにより、部落の地区ごとの代表者、主に年頃の娘を持つ親が土地神様を祀る神社に呼び出された。
誰だって自らの子は可愛いもので、決まることはない。
そこに、一人の少女が来た。
「私が、参ります」
少女の瞳は決意の色に染まっていた。
少女まだ年頃の娘とは言える年齢に到底及ばず、体もまだ、未発達であった。
しかし、大人たちからは何一つ異論が漏れなかった。
それは、少女が孤児であり、白銀の髪に紅い瞳を持っていたからだ。
ある人は少女をこの土地の九尾のお稲荷さまだと敬い、ある人は異形のものだと不気味がり畏れた。
少女の名を空狐という。
空狐はこの神社で育てられていた。
気立ての良い明るい娘だったために人々は余計に空狐に罪悪感を持った。
しかし、代わりに自らの娘を差し出す訳にはゆかず、空狐は贄になることになったのだった。
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