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その夜、空狐は一人、神殿の中で思い耽っていた。
確かに、自分が行かなければいけないと思った。
孤児だった空狐を育ててくれた神主様には悪いが、空狐以外に誰が行ったとしても集落の人々は憎しみあうだろう。
空狐はそれを止めたかった。
そして、止めることができるのは空狐だけだったのだ。
空狐は眩しさから目を開けた。いつの間にか神殿で眠ってしまっていたようだ。
"空狐"
頭に直接声が響く。声はとても優しく、美しかった。
「九尾のお狐様…?」
"そうです、空狐。
私は玉藻前。
妖狐から神の狐となったものです"
空狐は畏まり膝をついた。
畏れ多くも神の御前で眠り呆けていたなど笑い話もいいところだ。
"いいのですよ、空狐。
私は老いました。
そろそろ神様を引退しようと思います。
しかし、私の役割とこの土地に残した未練があり私は神界に戻ることができません。
空狐、私の力を貴女に与えます。
貴女がこの土地の土地神となり、私の憂いを除いてくれることを、私は確信しています。
こちらへおいでなさい"
空狐は呼ばれるがまま光の中に歩を進めた。
光はとても柔らかで空狐を暖かく包み込んだ。
"さあ、目を瞑って"
空狐は声に従い目を閉じた。
温かいものが空狐の中に流れ込んでくる。
それは激流となり空狐を飲み込んだ。
それでも、空狐は正面から本来ならば過ぎる力を受け入れた。
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