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「有田さん、休日はどんなことしてるんですか~?」
「…特に決まってないけど。」
「例えばですよー。映画見てるとか~、ドライブとか~。」
「どっちもするよ。一日中、本読んでる時もあるけど。」
…ドライブ、するんだ。
どちらかといえばインドア派なイメージだったけど。
私の斜め前で話してるからつい聞いてしまう。
「じゃあ、ドライブとかって、お一人様ですか~?それとも彼女さん連れてですか~?」
飲んでたビールをブッと吹きそうになるのを、なんとか堪えた。
なんてこと聞くの、サエちゃん!!
ちょうど、手品についての議論も終わったのか、近くに座っていた何人かもその会話が聞こえたんだろう、参加し始めた。
「おー、面白い話してんじゃん!
どうなんだよー?」
昂くんの肩を掴みグイグイ動かす先輩、佐々木さん。
グイグイ肩を揺らされて、
さすがにちょっとげんなりした様子の昂くん。
少し面倒くさそうに、
「どっちもですよ…。」
と、質問をしたサエちゃんにというより、しつこい佐々木さんに答える。
「あ、そーなの?彼女いるんだな、やっぱり!」
「え~、やっぱりいるんですかぁ?ざんねーん!!社内の女子に報告だな~。」
そりゃいるよな、と納得した様子の佐々木さんに比べ、
首を横に振って、あ~あ、と心底無念がるサエちゃん。
そこへ高梨がひょい、と現れ、
「あらー、女泣かせですね、有田さん!」
軽口をたたく。
「…高梨ほどじゃないよ。」
にっこり笑って答える。
その何故だか微妙なやりとりを、
私は近くで見てるはずなのに、遠くで見てるような感覚で、
ボンヤリと宙を見つめていた。
…カノジョガ イル。
その言葉だけが、私の胸の中に影を落としていた。
そりゃ、いい歳なんだから。
彼女くらい、いるよね。
もしかしたら、結婚だって考えてるよね。
当たり前のことだ。
なのに、なんで。
こんなに今更、胸が痛むんだろう?
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