12946人が本棚に入れています
本棚に追加
「麻美」
神谷さんの声が降ってくる。
低くて独特の響きがある、この声が好き。
「神谷さん」
「だから……」
今度は、ため息まじりの声。
「その呼び方は、よせと言っているだろ?」
「でも……」
神谷さんから何度も名前で呼ぶように言われても、呼び慣れた『神谷さん』が口を突いて出てしまう。
「麻美も『神谷さん』なんだぞ?」
そう。入籍だけ先に済ませ、わたしは神谷麻美になった。
海外で式をすることになり、神谷さんが休みの今日、詳細を決めようとパンフレットとにらめっこをしていたのだ。
それこそ、何時間も。
最初のコメントを投稿しよう!