番外編⑤

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   「麻美」 神谷さんの声が降ってくる。 低くて独特の響きがある、この声が好き。 「神谷さん」 「だから……」 今度は、ため息まじりの声。 「その呼び方は、よせと言っているだろ?」 「でも……」 神谷さんから何度も名前で呼ぶように言われても、呼び慣れた『神谷さん』が口を突いて出てしまう。 「麻美も『神谷さん』なんだぞ?」 そう。入籍だけ先に済ませ、わたしは神谷麻美になった。 海外で式をすることになり、神谷さんが休みの今日、詳細を決めようとパンフレットとにらめっこをしていたのだ。 それこそ、何時間も。
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