生き甲斐

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 俺は退屈していた。新聞を開いてみても、どれもこれも平和ボケした、つまらない記事ばかりだ。こんな記事など、みているだけで、退屈になる。  あまりにも退屈なので、新聞をゴミ箱に捨てると、俺は携帯電話をとり、適当な電話番号を入力した。呼び出し音が数回鳴り、誰かが電話に出る。 『もしもし』  相手は老人のようだ。  俺は笑みを浮かべると、わざと慌てた口調で喋り出す。 「じ、じーちゃん!俺だよ!俺!」  世間で流行っているオレオレ詐欺だ。相手はトロい老人らしく、すぐに返事をしなかった。  その方がやりがいがあるのだが。 『ケー坊か?どうしたんだ?』 「じーちゃん!俺、事故を起こしてしまったんだ!頼むから、現金で百万円、これからいう銀行に振り込んでくれ!」  そう言って、俺はトロい老人に適当な銀行口座の番号を教えた。警察は詐欺の大元を叩こうと、電話番号より銀行口座を優先して調査するはず。だが、俺が口にした番号はあてにならない。きっと、見つからずに四苦八苦するはずだ。  こうやって、トロい老人や警察を困らせてやるのが、退屈な俺の生き甲斐なのだ。
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