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わしは退屈していた。新聞を開いてみても、どれも平和ボケした、つまらぬ記事ばかりだ。わしが、子供の頃はもっと、刺激的で危ないことばかりだったというのに。いつの間に、こんなに軟弱になったのだろうか。
わしが退屈をいくらか紛らわそうと新聞を読んでいると、受話器が鳴った。
誰からだろうか。妻を亡くしてから天涯孤独のわしに、子供や孫などいない。電話をかけて寄こすような親友だって、思い当たらない。こんな、忘れ去られたような老人に電話をかけてくる者は一体、誰なんだ。
「もしもし・・・」
『じ、じーちゃん!俺だよ!俺!』
思わず目が点になった。こんな天涯孤独な老人のところに、社会問題になっているオレオレ詐欺を仕掛けてくる人間がいた。
相手はわしを騙すつもりで、電話をかけてきた。電話を切ってしまってもいいが、退屈を持て余していたので、話だけでも聞いてやろう。
「ケー坊か?どうしたんだ?
『じーちゃん!俺、事故を起こしてしまったんだ!頼むから、現金で百万円、これから言う銀行口座に振り込んでくれ!』
孤独な老人を騙して百万円もむしり取ろうとするとは、なんという奴だ。
わしは電話の相手がいうオレオレ詐欺の拠点ともいうべき銀行口座の番号をメモする。
『じーちゃん!頼んだよ!』
「分かった。分かった。可愛い孫の頼みだケー坊は何も気にすることはない」
わしは適当なことを言って、電話を切った。そして、すぐに近くの警察署に電話をかけ直した。
『はい。○○署です』
電話の相手は真面目そうな警官の声だ。わしはすかさず、今起こったことを警察に報告した。経緯と犯人逮捕の協力を惜しまないことを。そして、犯人が口にした銀行口座の番号を口頭で伝えた。
『ご協力感謝します。捜査が進み次第、ご報告に伺います』
これで、わしを騙そうとした奴は捕まるだろう。もし、そいつが大がかりな詐欺グループの一員だとすれば、一躍、わしは有名になり金一封でも捜査協力ということでもらえるかもしれない。
その時の事を考えると、退屈は紛らわされ、これから先の新しい生き甲斐としてやってゆけそうだ。
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