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自分は退屈していた。全く、何という世の中なんだ。事件という事件がまるでない。おかげで、自分は念願の警察官になれたというのに仕事は内勤の電話受付係だ。これでは、役所勤めと何も変わらないではないか。せめて、大きな事件でもあれば内勤から外勤に回してもらえるのだが、現状ではそれはまずない。
退屈していると、電話のベルが鳴った。どうせ、大したことじゃないだろう。車が勝手に家の前に駐車しているとか、猫が五月蠅いとか、有り触れた苦情なんだろう。そういうのは、役場にでも訴えろというんだ。警察は便利屋じゃないんだ。
「はい。○○署です」
つまらない仕事とはいえ、規則通り真面目な口調で電話の相手に応対しなけらばならない。変に相手の機嫌を損なえば、減給されかねないからだ。
電話の相手は老人だった。老人が言うには、振り込め詐欺は発生したらしい。それでも、騙されていることを知った上で、警察署に電話を寄こしてきたそうだ。
犯人の銀行口座の番号もメモしていたらしく自分に伝えてきた。自分は口に出して、如何にも仕事をやっているような素振りで口座番号を復唱してみせた。全くつまらないことだ。
「ご協力、感謝いたします。捜査が進み次第、ご報告お伺いします」
そう言って、電話を切るのがいい。未遂なら、わざわざ、上に報告する必要もない。この老人には、あとで出向いて適当に感謝でもすればいいだろう。そうすれば、老人も喜んでくれるはずだ。うまくいけば、感謝が上に伝わって外勤に回してもらえるかもしれない。
自分はそんなあり得ないことを思い、少しでも刺激的な毎日がくるよう願う。願うことも、自分みたいな仕事をしている退屈な人間にとっては、欠かせない生き甲斐なのだ。
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