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「今までのお礼」
美咲は身を引いて座り直すと、再びオレンジジュースを両手で持ち、照れたようにはにかんだ。それから、少し真面目な顔になって言う。
「これからは、お兄ちゃんの……大地のために生きるから」
悠人はハッとした。まさか、彼女は沈没事故のことを引きずっているのだろうか。そもそも小笠原へ行くことに決めたのは、美咲が「海が見たい」と言ったからだと聞いている。だとしたら。
「美咲、君が責任を感じることはないんだ」
「責任じゃなくて感謝よ」
美咲はきっぱりと訂正した。それから愛おしげに小さな手を胸に当てる。
「私の命はお兄ちゃんに助けてもらったもの。だから、お兄ちゃんのために使いたい。それが私の意志なの」
「美咲、君は……」
「私、もう子供じゃないわ」
美咲は真顔でそう言った。そこにあったのは、先ほどまでの年相応な子供っぽさではなく、自分の意志を貫き通そうとする毅然とした態度だった。
しかし--。
美咲、君はまだ子供だよ。
だって、自分のしたことがどれほど残酷か、気付いてさえいないのだから--。
悠人は下唇を噛みしめる。少しだけオレンジジュースの甘ったるい味がした。
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