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出してあげる、とは言ったが、梅子さんは家に帰ると華子さんのことを綺麗さっぱり忘れてしまった。
梅子さんにとって、それも当然だろう。
煩わしかった、眼の上のたんこぶだった存在を小さな空間へ閉じ込めたのだから。
夏休み中、校舎に来る生徒や教職員は少なからずいた。
しかし、華子さんが閉じ込められたトイレは特別教室が多い区画。
そこは誰も通らない場所。
誰も、気付かなかった。
華子さんの両親は帰ってこない華子さんを心配して、警察に行ったが、取り合ってもらえなかった。
今は信じられないけど、その頃の警察は貧乏人を差別していたんだ。
金持ちの子が行方不明になったら、躍起になって探す。
だけど、貧乏人の子が行方不明になっても、警察は動くどころか話も聞かずに門前払い。
華子さんの両親も、同じように門前払いされてしまったんだ。
もう、打つ手はない。
人は頼れない。
華子さんが無事戻ってくることを祈りながら、両親、家族は彼女を探し続けた。
だけど、祈りは届かなかった。
夏休みもあと1日で終わるという時、翌日の準備の為、教職員が校舎内の見回りをしていた時だった。
形容しがたい、異様な異臭が漂ってきた。
生理的に拒絶する、強烈な異臭。
当然、その教師は異常に気付き、警察へ通報。
異臭を防ぐマスクをした警察官数名と、付き添いの教師数名。
彼らが異臭の元へ辿り着くのに、時間はかからなかった。
3階の女子トイレ、奥から2つ目の個室。
その個室の前の床には、何か解らない液体が溢れていた。
大人たちは首を傾げ、個室の前へと歩を進める。
ある1人の警察官が気付いた。
「…個室の扉が、釘で打ちつけられている…」
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