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僕は体を真っ二つにされ死んでしまった!なんてことはなかった。
腹部のあたりを斬られた感触はあったけれど、傷一つついていない。服も切れていない。
「どうだ?斬られた感触はあったか?」
「はい。一体何をしたのですか?」
斬られたかと思ったら斬られていなかった。それは分かったけれど、何をされたのかはさっぱりわからない。
「寸止めしただけだよ。私は斬ると言い刀の柄を持った。そしたら少年は腹部を斬られたような感触があった。それだけの事さ」
いや、説明になってないでしょ。どうして寸止めしたのに斬られた感触があったのか分からない。
「斬られた感触は錯覚と言うべきかな?寸止めをしたときに僅かだが風が起こった。それが少年の腹部に当たり斬られたと感じた。説明は面倒だからそういうことにしておいてくれ」
…はあ、なるほどと思っておくことにしようかな。
「斬られたと感じるほどの風を起こすうえに寸止めをするのは難しいのだが、上手くいって良かったよ」
え?
「難しいのに僕で試したのですか?」
「ああ、誰かで試さないとちゃんとできているか分からないからな。刀で斬られる感触を体験できる芸なのだが、どうだろうか?」
どうだろうと言われてもな。逸樹姉さんには悪いけれど、呆れて何も言えない。
「うむ、良いアイデアだと思ったんだがな。やっぱり安全性は大切か」
「ですね。もしかして他の人にも試すつもりだったんですか?」
「保育園でやったら子供たちが喜ぶと思ってな」
逸樹姉さんは保育園でアルバイトのようなことをしている。この町には保育園が一つあるけれど、先生が足りていないから子供好きな逸樹姉さんが手伝いに行っているのだ。でも、まさか子供にこんなことをしようとするとは。
「さて、私は帰るとするよ。試し斬りされてくれてありがとう。あと、学校に遅刻しないようにな」
「はい」
逸樹姉さんは何事もなかったかのように帰って行った。僕は朝っぱらへとへとだというのに。
まあ、無事に食パンは手に入った。これで妹に殴られることはないだろう。
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