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左側を見れば、木製の丸テーブルが二つと、それを囲むように、かわいい椅子がそれぞれ三つずつ並べられている。正面の窓はテラスに通じていて、春のやわらかな日の光が差し込んでいる。
ぐるりと見渡してみたけれども、どこを見ても、やはり人の気配はない。
優海が意を決して中へ一歩踏みだした、そのときだった。
「あれ、優海ちゃん?」
緊張していたところにいきなり後ろから声をかけられ、優海の心臓ははね上がる。
我にかえった優海がふり返ると、亜麻色の髪を背中まで伸ばした、24、5歳くらいの美しい女の人が、にこやかに笑いかけていた。
「……あ、あ亜美さんっ?」
優海は目をまん丸くする。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
「ううん!何でもないんです。」
優海は、さっきまでの自分の妄想が急にはずかしくなって、顔じゅうが赤くなる。
「きょうはね、きっと優海ちゃんが来るだろうと思って、お茶に使えるハーブを庭で摘んでたの。ほらっ。」
そう言って、亜美さんと呼ばれた女の人は、手かごいっぱいに入ったペパーミントや、カモミールを優海に見せながら、花のように笑う。
やっぱり素敵だなぁ、亜美さんって。
うっとりしている優海のようすに気付くふうでもなく、亜美さんは扉にかかった立て札を『close』にして優海をうながした。
「さぁ、中に入りましょ。すぐに美味しいハーブティーとお茶菓子、用意するから。」
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