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あれから2時間後。
「いってきまーす。」
「ちょっと優海、ハンカチハンカチ!」
学校の制服に着替え、いきおいよく飛び出してゆく優海を、お母さんが呼び止めた。
「あっ、忘れてた。」
すでに玄関から2~3メートル先に駆けだしていた優海は、頭をかくしぐさをして戻ってくる。
「……もう、そそっかしいんだから。」
そう言って、お母さんは笑いながらハンカチを手渡す。
「だってきょうは嬉しくって~。」
へらへらと笑って答える優海を、お母さんはこまり顔でたしなめる。
「気持ちはわかるけど、あんまりうかれてると危ないから、気を付けるのよ?」
「は~い。」
「きょうは協会へ寄ってくるんでしょ?亜美さんによろしくね。」
「うん!じゃあ、いってきまーす。」
言うなり優海はふたたび駆けだした。
「……やれやれねぇ。」
お母さんは小さくため息をつきながらも、遠ざかってゆく優海の背中を笑顔で見送った。
優海が通う風原市立第一中学校は、家が建っている北東部の高台から1Kmほどはなれた、市の中心部にほど近い場所にあった。
ま新しい家が建ちならぶ住宅街を抜けて坂道を下ってゆくと、車の往来がさかんな通りにぶつかる。
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