名前を呼んで

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 それは、春の陽気の眩し過ぎる頃だった。 『次は頑張れよ』 『できるかどうかじゃない、どうやるかだっていつも言っているだろう』 『お前はダメだ、ダメだ、ダメナヤツダ……』 「くそっ……」  ガツッッ、竹がしなった。バサンバサンと葉が鳴り、耐えきれなかったものが何十枚と落ちてくる。拳が熱い。  俺が通う学校の校庭には、ひっそりとした竹林がある。ちょうど日差しが柔らかく遮られて涼しく、常に心地よい風が流れる林。俺はいつもそこの芝に横たわり、空を眺めて無為な時間を過ごす。  しかし今日みたいな日は、別だ。 (単細胞って俺みたいなことを言うんだろうな……習ったな、「単細胞」。……くだらねえ) 「すごい量の葉ね」  林の向こうから声がした。女の声だ。芝を静かに踏み分け現れたのは、制服姿のスラリとした女子生徒だった。そして、知らない女だ。彼女は白い指を俺に向かって指して、こう言ったのだ。 「紺崎、望道」 「あんた、誰だよ?」  なぜ、俺の名を? 「四ノ倉、柚希。あなたと同じクラスよ」  プリーツのスカートの裾と彼女の黒い毛先が軽やかになびき、林がまたザワッと鳴いた。
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