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「どうなってんだ!何でビョウガがいない?」
男の怒鳴り声がホールいっぱいに響き渡った。
「煩いぞ、蟷螂(カマキリ)」
「確かにこの絵から鱗粉が出ているのにだ!貉藻(ムジナモ)はおかしいと思わないのか?」
真夜中の美術館。そこに奇妙な男が二人いる。
足元まで隠す外套を纏い、右眼に単眼鏡をかけた、いかにも西欧の伯爵のような装いをしているのに、その外套の隙間から虫捕り網と虫籠が覗いている。
彼らの前には、一枚の絵画があった。
葉の一切ない枯れ木並樹に、どんよりとした灰色の空。
寒々しいその絵画のタイトルは『四季』。
貉藻は唇に指を触れさせながら、ビョウガによる被害報告書を読み返した。
<居眠り、うたた寝、寝惚ける>
そして顔をあげ、絵画を見据える。
「おかしいのは、それだけじゃない」
貉藻の発言に蟷螂は首を捻る。
「たとえば、お前はこの絵から何を感じる?」
「………淋しいとか、悲しいとか?」
「この絵を見て眠りたくなるか?」
「いや、ならねぇ」
蟷螂の素直な応えに、貉藻は満足気に頷く。
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