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「ビョウガは絵画に憑き、その鱗粉で人の心に影響を与える蛾だ。人は鱗粉に侵されると、絵画から得られる感情や感覚に心を支配される」
貉藻はビョウガ捕獲師としての常識事項を述べる。しかし、それでも蟷螂が解っていないようなので、
「つまり、被害報告と絵が一致してない」
「で、でも、お前だってこの眼鏡で見えているだろ」
蟷螂が単眼鏡を指す。
この単眼鏡は、普通では見えないビョウガとその鱗粉を映し出すためのものだ。
確かに、貉藻にも単眼鏡を通してこの絵画から鱗粉が出ているのは見えていた。しかし、貉藻はあえて蟷螂を無視した。
「もう一つおかしいのは、このタイトル。この絵の季節は何だ?」
「…………冬、だろ」
無視されたために不機嫌ながらも、蟷螂が応える。
「しかし、タイトルは『四季』」
貉藻は懐から懐中時計を取り出す。見事な蛾が描かれた、気品漂う逸品だ。
「貧乏で画材を買うお金のなかった画家は、描いた絵の上に、また違う絵を描いていたらしい」
蟷螂がはっと眼を見開く。
「このタイトルから察するに、この画家の場合はわざとだろう」
貉藻が懐中時計のフックを額に掛けると、絵画の前で懐中時計が揺れた。
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