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ボタンを一度押すと蓋が開き、普通の時計が姿を見せるが、
二度押すと、針が逆走を始めた。
それと共に絵画が変化する。
葉のなかった枯れ木には、紅や黄の鮮やかな葉が並び、夕焼けが、近づく冬の前の最後の情熱を表す秋が現れる。
次には、色付く前の若々しい緑が木を覆い、眩い日光が溢れんばかりの活力を表す夏が現れる。
そして、時計の針が止まる。
最後に現れたのは、木が淡い桃色に包まれ、麗らかな日差しが穏やかで、暖かく、柔らかな安息を表す春だった。
「こんなところにいたのか……」
春を表す絵画の、桃色の部分に憑いていたビョウガは、ふわりと飛び去ろうとして、蟷螂の虫捕り網に絡め取られた。
貉藻は懐中時計のボタンを三度押した。
時計は正常な方向に走り、逆走前の位置まで戻ると、普通の時計同様の平常歩行に切り替わる。
絵画も元の閑散とした冬に戻っていて、
「この冬の絵と四季というタイトルから、春に想いを馳せた者たちが被害にあったのだろうな」
「ややこしい仕事だったぜ」
蟷螂はビョウガを虫籠に、貉藻は懐中時計を懐に収め、二人は美術館から姿を消す。
そこには多くの想いを訴える絵画たちだけが残っていた。
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