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キースとグリッドは、戦場から逃げ出した。
数合わせで無理やり連れてこられた負け戦など、やってられるか!というわけで、木々を掻き分け駆け抜ける。
重い剣も早々に捨てた。
しばらくすると、林の切れ目が見えてきて、グリッドは飛び出す。
「何だこれ?鉄格子が地面につけられてるぞ」
グリッドの発した『鉄格子』という単語に、キースは額に手をあてた。
「これは線路だよ。俺たち列車に詰め込まれて、ここに運ばれたんだろ?」
「そういえば、そうだった。あの動く檻でキースに会ったんだよな」
懐かしい話が出たが、それはおいておき、キースは続ける。
「これを辿れば元いた町に戻れるぞ」
キースは思わず笑みをこぼしながら、林を分断するように地面をまっすぐ這う『鉄格子』を指さした。
キースの笑みにつられて、グリッドも笑みを浮かべ、二人は『鉄格子』の上を駆けた。
そのうち、二人は疲れて歩きだす。
何もないまま歩き続けて、数日が経過した。
凍死を避けるために、夜に歩き、昼に交代で眠り、木の根や幼虫を食べて飢えをしのいだ。
躊躇なく何でも口に放り込むグリッドの姿に、キースは初めてグリッドを尊敬した。
永遠に延びる林と線路で何日目かの朝日を迎えた。
枯れ枝を集めながら、今日の寝床を決める。
キースには火おこしの心得があり、枯れ枝は勢いよく燃えあがる。
昼とは言っても冷たい風が吹いていて、焚き火で暖をとっていた。
「暖炉で暖まりてぇなぁ~」
「ダンロ?」
キースがもらした弱音に、グリッドは首をかしげる。
「家の中の焚き火ってところか。ヒバシってので、つついたりしてさ」
キースが細長い枯れ枝で焚き火をつつく。
「ヒバシはヤキゴテか?ってことはダンロはアレか…。あいつらは熱くて痛いから嫌だなぁ」
グリッドは乾燥してカサつく左手を右手でさする。
そこに奴隷を示す焼印があることを、キースも知っていた。
「……お前はこの焚き火も嫌いか?」
しばらくの沈黙の後、キースが口を開く。
「これは、あったかくて好きだ」
グリッドの即答にキースは笑って、
「暖炉ってのはこういうのだよ。町に戻ったら教えてやる」
「そっか。ダンロってこの焚き火みたいにあったかいのか」
未だに、檻から眺める鉄格子にしか見えなかったものが、グリッドの目にもやっと、キースと同じように、希望につながる線路に見えた。
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