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「あっ…、わりぃ…」
俺はすぐに、しりもちをついている彼女の横に膝をつく。
「目とか、入ってねぇか?」
「うん、平気だよ。それより、私こそごめん」
彼女は瞳を伏せる。
「いや、俺の方が悪い」
しかし、彼女は首を横に振り、
「気づかなかった私が悪いわ。秀君も男の子だもんね」
ん?
「言わなくても、もう解るよ」
彼女は髪にベッタリとつくチョコをすくうと、胸や頬や唇に塗り始め、
「秀君、ハッピーバレンタイン。私を、め・し・あ・が・レ!」
「全力でお断り致します!」
「ああっ!待ってよ、秀君!」
俺は荷物を引っつかんで帰ろうとし、一度だけ彼女の方を振りかえる。
彼女はしりもちをついたままの状態で、捨てられた仔犬のような瞳でこちらを見つめていて、
「……とりあえず、オリオン座だけはもらっといてやるよ」
その言葉だけで彼女はパッと笑顔になって、
「また、明日ね!」
「ああ」
オリオン座は、
何だかしょっぱくて、
ケバケバしていた。
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