始まりの詩

2/11
153人が本棚に入れています
本棚に追加
/293ページ
「今日もいい天気だな。」 一人の男が大きく欠伸し、伸びをして、東の空から昇る光を見つめ、立ち尽くしていた。 ボサボサの頭に、無精髭。因れた着物から半身はだけ、豹豹とした風貌だ。 男は実に二十年の間、この朝の一言を忘れなかった。 地平の先から昇る太陽を見、冷たい風を吸い込む。それがこの男の日課だった。 「やはりここにいたか。」 振り返ると、彼より背の丈が一回り大きい男が、笑顔で手を上げた。 「おう甘言、お前も今日は早いじゃないか。」 腕を組む男の隣に立つ。 「お前と話したい事があって眼が覚めたのさ。」 手を眩しい陽にかざしながら、彼を見ていた。無精の男は眉を動かし笑う。 「何だ?」 少し視線を下げてしかし、意を決したように言う。 「…何故、あの時に郡界を断罪しなかったんだ?」 カカッと笑い、雲を見る。 「その事か。」 「理由ぐらい話せ。豪角将軍も納得しかねてる。」 眼を細めて、陽にまどろむ。 「大した事ではないだろ。」 平然とそう言うと、長身の男はその言葉に憤激した。 「…ヤツはお前を殺して、この国を盗ろうとしたのだぞ!!」 普段は穏やかな彼も、この時ばかりは、唾を飛ばして激した。 「今ヤツを斬らねば、必ず後悔するぞ!!新たな刺客が出るやもしれん…!!」 「その時はその時だろ。」 軽い調子で言った。 「…お前は自分の命を軽視しているのか!?」 肩を怒らせて怒鳴る。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!