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「えーっと、どっちに行けばいいんだろう?」
メモ帳に記した手書きの簡単な地図を見ながら、
初めて降り立った駅の周辺をウロウロする私。
姉の志津子から食事のお誘いメールが来たのは、
ほんの一週間前のことだった。
「なっちゃん、ひさしぶり~。元気にしてる?
突然だけど来週の土曜日にでも、ウチに遊びにこない?
幸雄さんも交えて3人で食事でもしましょうよ。」
私の名前は奈津子なので、姉からは「なっちゃん」と呼ばれていた。
それに対して、私は姉のことを「しいちゃん」と呼んでいる。
姉と私は二人っきりの姉妹ということもあり、
小さい頃はよく一緒に遊んでいた記憶があるが、
大人になるにつれて少しずつ疎遠になっていたようにも思う。
遊園地で子供達を相手にするようなバイトをしているとか、
幸雄さんという結婚を前提にした彼氏がいるとかは聞いていたが、
たまに姉とメールや電話をする機会があっても、
その辺を深く追及するような会話はなんとなく避けていた。
そんなしいちゃんからの急な食事の誘い。
私はまだ幸雄さんとは全然面識がないのだ。
正直、唐突過ぎて戸惑う部分もあったが、
しいちゃんと幸雄さんの仲もいよいよ深まってきたのかなと、
なんだかウキウキするような気持ちになったのも事実だ。
「道がちょっとわかりづらいから、駅で待っててくれてもいいよ。
私は仕事でちょっと遅くなるかもしれないけど、
幸雄は休みの日だから、いつでも迎えに行ってもらえるし。」
姉からは何度かそういうメールが送ってこられたが、
前に会った時、「一応コレあげとく」と言って渡してくれた手書きの地図があったので、
私はそれを頼りに初めての街を散策することにしたのだった。
ほどよく都会で、ほどよく田舎。
なるほど、しいちゃんが好きそうな街だね・・なんて思いながら、
地図の目印をハシゴするように少しずつ歩みを進めていく。
街並み観察も兼ねて、お散歩気分でのんびりといきたいところだったが、
次第に傾いてくる赤い夕日が私の心をにわかに急き立てる。
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