気まずい空間

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少し入り組んでいる商店街や住宅地を通り抜けたりもしたが、 分かりやすい地図のおかげでさほど迷うこともなく目的地に到着した。 駅から徒歩25分のところにある、ほぼ新築のマンション。 ここでしいちゃんと幸雄さんが同棲してるんだな・・・ そう思うと、ちょっと胸の奥がこそばゆくなる感じがした。 「はーい、あ、奈津子ちゃんだね。どうぞいらっしゃい。」 玄関ロビーで部屋の番号を入力すると幸雄さんの声が出迎えてくれた。 私のことを姉から見せられた写真か何かで知っていたらしく、 すぐにオートロックキーを解除してエントランスのドアを開けてくれる。 相手が自分のことを知っていてくれたことに安堵しながらも、 そういう自分は幸雄さんの写真すらみたことがないことに思い当たる。 エレベーターに乗って5階行きのボタンを押した後、 私はさっき少しだけ耳にした幸雄さんの声の感じなどから、 まだ一度も会ったことがない彼の人となりを想像してみた。 今年で24になるしいちゃんより8コ年上って言ってたし、 やっぱり声の雰囲気からもかなりの落ち着きが感じられるなぁ。 賃貸とはいえ、こんな立派なマンションに住んでるくらいだから、 しっかり稼ぎもあって頼れる男性っていうイメージも膨らむし・・・ そんな空想をほんの10秒程度してみただけにも関わらず、 私の頭の中には幸雄さんの顔カタチまでが鮮明に描かれるようになっていた。 しいちゃんもちゃっかりイイ男つかまえたね?なんて、 自らの妄想をエサにしてニヤニヤしてしまう身勝手な私をヨソに、 無機質なエレベーターはさっさと目的地へと到着し、 たった一人だけの乗客を吐き出そうとして大きな口を開く。 さて、と・・・ そう心の中で気合いを入れてエレベーターから降りた私は、 緊張と疲れからくる倦怠感を少し感じながらも、 目の前に並んだいくつかのドアの中から目指すべき部屋番を探した。 しいちゃんと幸雄さんが住む505号室は角部屋だった。 「こんばんはー、お待ちしてました。入って入って。」 インターホンを押してかしこまっている私を、 幸雄さんが穏やかな笑顔で快く迎え入れてくれた。
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