気まずい空間

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「志津子はちょっと仕事が長引いちゃってるみたいでさ。  でも、すぐに帰ってくると思うから、ちょっと待っててね。」 「あ・・・、そうなんですね。  なんか、急にお邪魔しちゃってすみません・・・」 他人の家で初対面の相手と二人きりということを知り、 私は少し面食らうような気分を味わいながらも、 初めて訪問した姉と恋人の住まいを観察することも忘れてはいなかった。 玄関から続く廊下の両脇にいくつもドアがあり、 それぞれが何らかの部屋へと通じているようだったが、 幸雄さんに案内されたのは廊下の正面突き当たりの空間。 そこのドアは開けっぱなしになっていて、 居間とキッチンが一緒になっている大部屋があるようだった。 「いやいや、全然かまわないよ。  こっちから言い出したことなんだからさ。    まぁ、志津子が帰るまで適当にゆっくりしといてよ。」 そう言って私を部屋に招き入れる幸雄さんの実物(?)は、 私が妄想していたものに比べると、はるかに疲れが出ているような、 平たく言えば“おっさん”ぽさがなくもなかったが、 けっしてハンサムではないが人の良さそうな人相と、 清潔感のある身なりに落ち着いた声色が相まって、 まぁ人によっては好印象を持たなくもないかなという風体だった。 初対面同士のぎこちなさがまとわりつく中で、 私と幸雄さんはおもにしいちゃんのことを話題に出しながら、 しばしの間、他愛もない談笑の時間を共有するしかなかった。 「それにしても、よくここまで迷わずにこれたよね。  あ、そうだ。ノドかわいたでしょ。紅茶でもいい?」 幸雄さんが会話の流れを軽く切るような感じでそう提案したので、 特に断る理由もなかった私はお言葉に甘えて紅茶をいただくことにした。 オープンキッチンに立った幸雄さんは慣れた手つきでコップの用意などをし始める。
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