2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
初対面での幸雄さんに対する印象が煮え切らない感じになってしまったのは、
率直に言ってしまえば私のタイプではなかったということだろう。
しいちゃんの彼氏を紹介されたことなど今まで皆無だったので、
たとえ姉妹といえども男の趣味はだいぶ違うものだなと、
変なところで感嘆してしまっている自分がいるのだった。
とはいえ、
ふとした会話の中で幸雄さんが「志津子」と口にするたびに、
私たち姉妹の間に入ってきた異性の存在がイヤでも意識されてしまうため、
不思議な高揚感を覚えてドキドキしてしまうのもまた事実ではある。
その幸雄さんが台所に行っている隙に・・・というわけではないが、
なんとなく手持ち無沙汰になった私は、いまだ帰らぬ姉にメールを送ってみた。
「もう着いちゃったよ?。しいちゃんの地図わかりやすかったし!!
仕事で遅くなってるって聞いたけど、なるべく早く帰ってきてよねー(笑)」
さすがにもう仕事自体は終わってる可能性も高いので、
堂々と電話をかけてしまえばそれで良いのかもしれないが、
幸雄さんの前で姉妹の会話を聞かれてしまうのは恥ずかしい気もするのだった。
それに、しいちゃんは最近、あんまり電話をとってくれないイメージがあったし。
「はい、どうぞ。
たいしたもんじゃないけどさ。
ここのレモンティー、オレは好きなんだよね。」
カチャっという音を立てて、幸雄さんが携帯をいじっている私の目の前にティーカップを置く。
「あ、いえ、とんでもないです。いただきます。」
少し不意をつかれた私は軽く恐縮しながらも、ほんのりと湯気の立つ紅茶に口をつけた。
まだ結構熱くて少量をすするくらいしかできなかったけれど、
レモンティーの甘酸っぱい香りが私の緊張を優しくほぐしてくれる。
幸雄さんが紅茶と一緒に出してくれたお茶請けも遠慮なくいただき、
ノドの渇きと腹具合がそれなりに満たされて落ち着いてきた私は、
あらためて姉とその恋人の住まいを観察し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!