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──実景達三人が出会う少し前、一本通りを挟んだ広場には青いガラスのはめ込まれたブローチと睨めっこしつつ歩いている桃花の姿があった。
既に学生寮の方に制服や数着の衣類等生活必需品は揃ってると聞いていたため荷物は小さなナップサックに軽い財布と暇つぶし用の小説一冊、そして転入案内の封筒のみだ。
一般の女子であるならここでメイク道具やらお気に入りの衣類やらコテやらアイロンやらが出てくるのだろうが、桃花はそれらには無頓着であった。
中学二年生という年齢は微妙なもので、未だ興味の無い彼女は変わってるとまでは言わないが、それにしても無頓着すぎるだろう、一度も手を加えたことのない黒髪には酷い寝癖が無造作に放って置かれている。
「……」
けれど今はそんなことは大して問題じゃない。
真面目気質の彼女には学校へ辿り着けない事の方が大問題なのだ。
「まさか……新手の詐欺……?」
呟いて頭を横に振った。
arkへの転入の件は昨日まで桃花の担任だった教師にも届いていて、祝福さえされたのだ。
いくらなんでもドッキリとは考えづらいし考えたくもない。
「大体よく考えたらブローチが指し示すって──」
「すっごく阿呆らしい」
「うん。 ってえぇ!?」
桃花の独り言に言葉が帰ってきた。
大袈裟に驚いて数分振りにブローチから目を離すと、そこには一人の少女が立っていた。
黒いタートルネックのセーターにスキニーのジーンズ、そして黒いショートブーツ。
全体的に黒い少女である。
「……あの、どなた様デスカ」
突然声を掛けられた不信感と、ブローチが指し示すなどとおかしな独り言を聞かれて桃花は端から見て分かるレベルで狼狽していた。
「多分、あんたと同じ」
少女は真顔のままにジーンズのポケットに手を突っ込むと、桃花の手にあるブローチと似た物を見せた。
少女のブローチは黒である。
「arkに転入する人!?」
「黒崎梨乃。 よろしく」
「おおおおお! 天魔桃花です!」
「……天魔?」
梨乃は一瞬眉を潜めたが、すぐさ視線を少し下にずらしその表情を隠した。
「珍しい苗字っしょ? あんまり縁起も良くないし」
「いや、いんじゃん? それより……」
梨乃は一度桃花に視線を合わせて、すぐにその背後へやった。
同時に爪の長い指も同方向へ指した。
「あの天パ男、知り合い?」
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