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「天パ……?」
桃花は怪訝に眉を潜めて梨乃の指差した後方へ振り返った。
「……」
その途端、一人の少年と目があった。
平均より少し細身に見えるその少年は、引きつった笑顔で固まっている。
髪は手入れが行き届いているのだろう痛みは見受けられないが、酷くくるくるとした癖がついている。
桃花と梨乃に睨まれ、まるで蛇に睨まれた蛙のように冷や汗を流して微動だにしない少年は、やがて大きく生唾を飲み込むとようやく言葉を発した。
「……コンニチハ」
だが喉でもって乾いているのか怯えてるのか酷く小さな声である。
「誰?」
少しだけ自分の記憶を探ってみた桃花だが、明らかに自分の通っていた中学の物とは違う学ランに袖を通している時点で知り合いだという確率は各段に下がる。
小学校が一緒だったというのも考えられはするが、どうもあんな素晴らしいほどの天パは記憶にない。
少年を睨みつけている梨乃も桃花と同じ様なものだろう。
だがしかし、不思議と桃花には少年が懐かしく感じられた。
「……日向天荒」
少年──天荒は硬直した空気を取っ払うように口を開いた。
「俺、学園都市arkって所に行きたいんだけど行き方分かんなくて、それで君がブローチ持ってんの見かけて」
そして学ランの内ポケットから自らのブローチを取り出し見せた。
それは中にはめ込まれてる石こそ桃花の物と違い黄色だったが形状そのものは一緒だった。
「それならそうとさっさと出て来いよ」
桃花がようやく安堵の息を漏らしたと同時に梨乃が一歩歩み出て天荒の腕を引っ張った。
「うわぁ! ちょ! 学ラン破れ──」
「破れないっつの! ウチがマウンテンゴリラにでも見えるわけ?」
「まぁそれなり……っでぇ!?」
広場いっぱいに『スパーン』という小気味の良い音が響いたと思えば、次の瞬間には天荒の頭には巨大なたんこぶが出来ていた。
「うわぁ……」
桃花は目の前で繰り広げられた漫才のようなやりとりに目を白黒させつつも、
「あたし、天魔桃花」
天荒の自己紹介に対して自分の名を名乗った。
「そっちの子は黒崎梨乃さん……」
続けて一応天荒の首根っこを掴んでいる梨乃の名も伝えた。
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