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とは言っても当の天荒は白目を向き今にも口から泡をふきそうな程なので桃花の声が届いているかは怪しいところだが。
「……黒崎さーん、その人死んじゃうんじゃ──」
「あ……やべ」
梨乃は桃花からの言葉に慌てて手を離した。
途端に解放された天荒は地面に腰を落として激しくせき込む。
「まぁ、とりあえず天パは放っといて──」
「放っとかないで!?」
「──これからどうするかー」
「無視!? ちょっと待って、無視!?」
「歩くの疲れたしこの広場じゃ補導もされかねないし」
梨乃は見事という程に天荒の言葉をスルーしていくと、桃花を一瞥して歩を進めた。
「向こうに人通りの少ないちっさい公園あるから、とりあえずそこ移動!」
「はい!」
多少は天荒を気にしつつも、桃花は一つ返事で梨乃の後を追った。
──しばらく先頭を歩く梨乃の背中を追っていると、確かに人通りのほとんどない道に入った。
この先に公園があるとは考えにくいが、それでも彼女について行くしか無いのだから桃花に為す術はない。
「……ねぇ、そういえば少し気になるんだけど」
「ん?」
なんとなく重い空気に耐えられなくなった桃花は、自分のブローチを掌に取り出し言った。
それに伴って梨乃も足を止め振り返る。
「ブローチの色だけど、アタシ銅色の縁に青じゃん、黒崎さんは──」
「金縁に黒。 天パは?」
「俺は銅縁に黄色かな……あれ? みんなバラバラじゃん」
三人が自然に円になり、それぞれのブローチを見せると、天荒が何か気付いたように自分のブローチを太陽に透かした。
「それにこれ、中に何か彫ってあるな……花?」
──その時、激しい閃光が少し先に見えた。
ちょうど梨乃が案内しようとしてた公園の方である。
「なんだあれ」
「ちょっと待って、天パくんのブローチ……!」
「ん? うお!?」
遠くの光に気を取られていた内に、太陽に透かしていた天荒のブローチも激しく光り始めた。
そしてしだいに天荒の体が宙に浮き、透け始めたのだ。
「天パの腕でもどこでもいいから掴んで!」
梨乃は何か気付いたように唐突に天荒の手を掴むと、桃花にも指示を飛ばした。
「え!?」
「早く!」
戸惑う桃花に再びの梨乃の怒声が飛ぶと、ようやく弾かれたように目の前にあった天荒の足を掴んだ。
──まさにその瞬間、三人の姿は一際激しい光と共に消え入ってしまった。
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