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──空は澄み渡るような青空だった。
少女はまだ眠気眼の瞳をこすり、布団から這うように抜け出すと欠伸をかみ殺しながらこじんまりとした仏壇の前に座り微笑んだ。
「いってくるね」
光にとけ込んでしまいそうな程に淡い桜色の髪が、どこからか入り込んできた柔らかい風に静かになびいた。
──時は3日前に遡る。
「実景」
母に名を呼ばれた。
いつもの様に厳しい口調ではなく、どことなくそれは優しい音色だった。
だからであろう、少女──実景は恐る恐る、三日振りに母が居るのが分かり切っているこの時間に部屋の襖を開いた。
自分の薄暗い部屋をかき消してしまうように、廊下の眩い光が入り込んで一瞬視界を閉ざされる。
「これ、読んで」
次の瞬間目に入ったのは、真っ白い封筒だった。
大きさは角形3号ほどだろうか、家に届く郵便の中にも時々見られる大きさである。
宛名も差出人もないその封筒は何が入っているのか、真ん中当たりが少し膨らんでいてひどく不格好だ。
「なに……?」
不思議と実景の胸は高鳴っていた。
内容もまだ分からないその封筒は何故かとても魅力的で、まるで催眠術にでも掛かってしまったかのように、
──今すぐ中身を見たい。
そんな衝動に駆られていた。
「ママは部屋にいるから、読んだら返事を聞かせてね」
そんな母の言葉もまるで分厚い硝子を隔ててるかのように遠く聞こえた。
襖が閉まり、再び部屋に薄暗さが戻ると実景はすかさず灯りを付け座り込んだ。
お尻の下に居る子豚を象ったクッションがポフっと柔らかい音を立てて沈む。
そっと封筒の口を開き、中身を取り出した。
中に入っていたのは一枚の厚紙と、更に小さな封筒、そして両手にようやく収まるほどの白い木箱だ。
初めに目に付いた厚紙に目をやると、金の印字でこう書かれていた。
──我が学園に貴女を招待します。
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