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──最後に、彼女は笑っていた。
笑いながら……。
「……」
生まれつきのブロンドの髪、深い海のような色をした瞳、透き通るように白い肌──童話に出てくる王子様そのものの風貌をした少年は不似合いな着物を纏いこれまた不釣り合いな広い和室に正座をしたままペンダントを手に呆然としていた。
彼は緑川 エリク。
日本人の父とフランス人の母を持つハーフである。
父の実家は有名な茶道の家元であり、エリク自身も幼い頃から自然とその道を極めていた。
──学園都市Ark
本来ならばエリクは初等部からそこに通うはずだった。
しかし受験を済ませ入寮も直前に控えたある日、母が何者かに殺された。
幼かったため、詳しいことは覚えていないが、無惨な死に様だったと聞いている。
覚えているのは、それから父がおかしくなってしまったということだけだ。
何をしているかは知らないが、本家の事はエリクの祖母に全てを任せ、家に寄りつくことは少なくなっていった。
今では一年に一度会えるか会えないかくらいだ。
しかし定期的に手紙は届く、毎月どこで稼いでるのか十分過ぎるお金も入ってくる。
突然の『転校』の件も、今し方届いた父の手紙と大きめの封筒ならびにその中身から知ったばっかだ。
父からの手紙にはこうあった。
『エリク、お前にも中学卒業後から私の仕事を手伝って貰う。
そこには私の同僚の娘さんも行くそうだ、他にも烏候補の子供が行くかも知れないとの連絡も受けている
とにかく、全てはその書類の通りだ』
相変わらず無機質な字だった。
それに烏やら仕事やら、意味の 分からない単語が並んでいる。
だがしかし、どんなに訳が分からずとも理不尽だとしても、父に逆らう術はエリクには無かった。
手紙や書類、そしてブローチを元通りに片付けると、一息吐いて立ち上がった。
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