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──たいようのいえ
元は楕円に切り取った木の板を赤く塗り、白いペンキでひらがな7文字が綴られたその看板は、今では所々にヒビが入り文字は黒く汚く染まっていた。
ここは、どこにでもある貧乏な施設である。
主に親を亡くした0歳から14歳までの子供たちが生活していた。
少し前までは現在年長者の赤星 竜の上に数人居たのだが、皆それぞれ出て行ってしまった。
大抵、竜くらいの歳になれば分かってしまうのだ。 園の経営が厳しいことくらい、けれど園長はその事を微塵も出しはしない。
出て行った兄や姉達は皆少しづつでも園長宛に生活費を送っているらしいが、彼はそれすらも個別に貯蓄している。
いつか返すつもりなのだろう。
竜はそんなお人好しの園長を尊敬しているし大好きなのだ。
──歩く度にギシギシと鳴る今にも崩れ落ちそうな廊下を歩いていると、後ろから少女の声が聞こえた。
「お兄ちゃん!!」
続いて走り寄る音、自分まで数メートル、手の届く距離になったところで竜は振り返った。
「どうしたんだ真樹?」
声の主は竜の予想通り、五つ下
真樹という少女だった。
竜は生後数ヶ月の時に園の前に捨てられていた彼女を一際大切な家族だと認識していた。
真樹は流れる涙を自重することなく、嗚咽混じりに言った。
「出て行っちゃうって本当?」
一言しゃべる度に大きな瞳から涙がこぼれ落ちる、心が痛まないかと言えば嘘になるだろう。
だがしかし、もう決めたのだ。
「あぁ! 兄ちゃん金持ちの学校行くんだぜ、スゲェだろ」
「やだ!」
「真樹、何も一生別れる訳じゃねぇし、長い休みには──」
「ばか! お兄ちゃんのばか! 竜のばか!」
「っおい!」
竜の事を一際強く殴った真樹は、そのまま走り去ってしまった。
いつものようにどうせすぐ機嫌は治るだろうが……。
「──しゃあね、とりあえず準備するか」
そう言い訳の様にぽつりと呟き、竜は自室のある方へ歩き出した。
──恐らく何も無ければ竜だってこんな全寮制の窮屈そうな学園に通おうなどとは思わないであろう。
しかし彼は気になってしまったのだ、赤い箱を開けた途端、ブローチが発した光が見せたあの光景が。
最後の、泣き叫んでいた彼女の事が……。
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