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──静まり返った、寒々しい程に静まり返ったワンルームのアパートの一室で、少年は座り込んでいた。
「……久しぶり」
目を閉じながらそう囁く少年の前にはもちろん誰も居はしない。
おそらく眠っているのだろう、その証拠に肩は規則正しく上下の運動を繰り返している。
口元には優しい微笑みを浮かべ、手には差出人不明の手紙と共に届いたブローチが握られている。
ブローチが少年──日向天荒に見せたのは、とても幸せな温かな日々だった。
山に囲まれた緑の多い村での長閑な日々。
愛した人の幸せそうな笑顔。
幻の中の彼女は天荒の記憶には無い少女であったが、不思議と心が穏やかになった。
そしてその幻は、日向天荒が過去に愛したひとりの少女を思い出させた。
わずか14歳では愛なんて言ったって嘘くさいかも知れない。
本当の愛など、母や父からの愛も気付けないような子供が語れる筈もないのだ。
けれど、天荒は彼女を『愛』していた。 していたはずだ。
──2年前、まだ小学生だった天荒は、肺炎を少し拗らせて市内の大きい病院に入院をしていた。
そこで出会ったのが本城 愛という、2つ年上の少女だった。
天荒はその少女に、俗に言う一目惚れをしていたのだ。
実際に彼女と過ごせた日々は半年足らずであったが、その頃の思い出は、愛の笑顔は今でも脳裏に焼き付いている。
もう一生会える事が無いとしても、天荒は彼女の事を未だに好いているのだ。
──愛と別れ、中学に上がった天荒は荒れ果てていた。
中学に上がり少し大人になったという虚栄心と、日々の筋トレで培った肉体への自信から、母や父に暴力も振るった。
友人は居た。 けれど連むだけの知り合いに等しい関係だ。
そんな一年が終わり、気付けば天荒は一人になっていた。
両親は天荒にアパートと毎月必要なお金を振り込み、別の地で生まれたての妹と暮らしている。
不良グループに居ながら、妙に冷めていた天荒からは段々と『友人』だって遠ざかっていった。
そんな中、今朝届いた手紙とブローチ、そしてあの幻は天荒の心を優しく癒した。
「やり直そう」
夢の中の愛は、そして少女はそう言って優しく微笑んだ気がした。
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