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「うん……?」
空も清々しく晴れ、風もおだやかな11月4日午前8時。
何ヶ月ぶりに袖を通したか、黒地のセーラー服に身を包んだ実景は、ふと立ち止まった。
胸には、学園都市arkへの転入の詳細と共に入っていたブローチが太陽からの光を跳ね返し輝いていた。
「そう言えばarkって──」
よくよく考えてみればarkの場所がわからない。
手紙にはブローチが指し示すと書いてあったが、何も起こる気配はない。
ならばせめてヒントでも無いものかと、必要最低限の物だけ入れたリュックに手をかけたその時、
「あれ~?」
もう二度と聞きたくは無かった、嫌いな音が聞こえた。
「桜月じゃん、こんなとこで何してんの?」
実景の瞳が彼女を捉えた瞬間、同じ制服を身にまとった少女は不敵な笑みを浮かべて近寄ってきた。
「歩美……ちゃん」
今まで生き生きとした表情をしていたのも一転、実景の瞳には恐怖や嫌悪といった色で溢れた。
それを見た少女──歩美はさらに口角を釣り上げて実景の目の前まで来た。
これ以上近寄れば肌が触れ合ってしまう程の所で、背の高い歩美が実景を見下ろした。
「不登校児の実景ちゃんがこんな所で何してるのかな~?」
「いや、あの……実景──」
「っていうかその髪染めてこいって言ったよねぇ? なに? そんなに目立ちたいわけ~?」
「だから染めても──」
「色入んないんだもん☆って~? どこのオカルトだっつーの」
「……」
そう言われてしまえば返す言葉も無かった。
けれど何度染めても色が入ってくれないのは事実だった。
歩美だってそれは知っているはずなのに……。
思わぬ人物との遭遇に実景が唇を噛んで、目に涙を浮かべたその時、
「弱い者虐めはやめろよ」
まさに『少年』を彷彿させる良く通った声が後方から聞こえた。
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