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「で、飛行機に乗るぎりぎりの時間になってね。
ああ、わが子を抱くことなく日本を旅立つのか。
って、気を落としてエレベーターに乗り込もうとしたのよ。
そしたら、看護師さんが慌てて俺の名前を呼んでさ、
『松岡さん、お子さん!たった今生まれましたよ!』
てさあ。
そりゃ、もう、大慌てでスーツケース放り出して戻ったら、
看護師さんが息子連れてやってきてくれたんだよ。
小さなベッドに入ってる息子を抱き上げた時は、
もう....お前、よく頑張ったな!って思わず息子に言ったよ。
此処で逢えなかったら、
後どれだけ先に息子を抱けることになったのかって思うとさ、
嫁も含めて、ありがとうって気持ちでいっぱいだったな。」
目頭を押さえつつ、家族との別れを告げた時を松岡さんが語る。
「そんな感動的な話聞いたら、
俺~何も言えないなあ、
俺なんか、行っておいで~って諸手上げて応援されたからね、
愛してくれる家族がいるっていうのは羨ましいよ、松岡君」
50歳を迎えた生え抜きの相葉さんが、舐めるようにロックグラスに口をつけた。
既に赤くなっている顔だったが、分厚い眼鏡の奥から、きらりと光る雫が垣間見え、笑いながら目尻を擦っては、悲しげな溜め息を漏らした。
「小栗君も、彼女日本に残してきているんだろ?」
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