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「あ、はい」
「日本を発つ直前に、両思いになったそうですよ」
松岡さんが、相葉さんにひっそりと漏らした。
「あらら、そりゃ大変だねえ。逢いたいでしょ?彼女に」
「ええ、それは勿論」
言葉を濁そうかと思ったが、ぼかせば、ぼかすほど、あいつに会いたくて堪らなくなりそうだった。
時差の関係で、アイツと会話を出来る時間の殆どは仕事の真っ最中で、それでも、どうにか時間を見つけては電話をかけていた。
声を聞いては、もどかしいほどに、素直じゃないアイツの言葉を聞くたびに、愛おしくて、今すぐ抱きしめたいという感情が沸き起こってくる。
「付き合いたてのカップルの愉しい時間が、いきなり遠距離恋愛ってね、
小栗君も何でそんな辛い恋愛を選んだの?
こっち(リヨン)にきてから探せばいいのに」
松岡さんが、尋ねたごく普通に考えるであろう質問に、素直な言葉が口から溢れだした。
「アイツじゃなくちゃ駄目だったんです。
たとえ遠距離になったとしても、
この先どれぐらい逢えなくても、
アイツの代わりなんか何処にもいない。
そう思えたから、想いを告げました」
「あつあつだなあ、ごちそうさま」
正直に心のうちを告げた。
先ほどの松岡さんの話に感化され、自分の感情を思わず披露してしまったことに対して、恥ずかしさが急激にこみ上げてきた。
それを押し隠そうと、目の前の冷えたシャブリの注がれたフルートグラスを掴み、ぐいっと乱暴に流しこむ。
「日本に残した彼女のことは心配?」
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