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「信じてますから、彼女を」
「そっか、まあそうだよね、なんてったって付き合い始めだもんなぁ」
松岡さんはそういい笑ったが、そもそも、俺と佐藤は、気持ちを確かめ合った飛行場でのあの日から、電話で話すのみだ。
最後のキスも、既に1ヶ月もの月日が経っていた。
彼女の温もりが、霞んでしまう前に、もう一度、気持ちを確かめ合いたい。
そういった想いは、俺だけが抱いているのだろうか。
アイツとの電話からでは、素直じゃないアイツの本心なんて覗けなかった。
「会いたい......」
誰もいないホテルの部屋で、呟いた。
窓の外には、ビジネスの中心地であるタワー型のオフィスが立ち並んでいる。
俺が居る場所は、東京のオフィス街と変わらない環境の中にあった。
だが、旧市街に立ち並ぶ、石畳と白いレンガの壁が並ぶ街並みや、日本とは異なる気候は、やはり東京とは異なる。
馬にまたがる凛々しいルイ14世の銅像が立つベルクール広場。
ただのだだっ広い広場だが、ここにやってきて初めて見た観光スポットだった。
ひっそりとした佇まいのサン=テグ=ジュペリの像。キラキラと輝くローヌ川へと落ちる夕日。
フルヴィエールの丘からの夜景も、真っ白な壮大に聳え立つ大聖堂も、この街の全てを、俺が見ている世界を、……..いつか佐藤にも見せたい。
俺のいる、この場所の全てを、共有したい。
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